コラボヘルスとは? 企業と保険者がコラボヘルスを効果的に推進するポイント

近年、健康経営に取り組む企業が増えている中、企業と健康保険組合が連携して従業員の健康増進を目指す「コラボヘルス」という施策も注目を集めています。

この記事では、コラボヘルスの概要をはじめ、その意義や注目の背景、具体的な取り組み方などを解説します。企業による具体的な取り組み事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

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目次

コラボヘルスとは

コラボヘルスとは、企業(事業主)と健康保険組合などの医療保険者とのコラボレーション(協働)を通して、従業員(被保険者)の健康増進を図る取り組みのことです。

コラボヘルスの推進においては、保険者の持つ各種健康データを活用した「データヘルス」と、事業主が経営戦略上の観点から従業員の健康管理に取り組む「健康経営」が2本の柱になります。事業主と保険者が手を携えてデータヘルスおよび健康経営を推進し、従業員一人ひとりの健康を適切に管理・増進していくことが、コラボヘルスの基本的な形です。

コラボヘルスの意義

コラボヘルスは、事業主と保険者がお互いに協力しあうことで、それぞれが取り組む健康経営およびデータヘルスをより有効に機能させられる点に意義があります。

そもそも健康経営とは、事業主が従業員の健康を向上させるための経営戦略のひとつであり、従業員の健康を支えることによって企業全体の生産性向上や企業価値の向上を図るものです。この考え方は、従業員の健康状態が組織のパフォーマンスを高める上での大きな要素となるという視点に基づいています。

関連記事:【徹底解説】健康経営とは?もたらす効果、取り組み事例

またデータヘルスは、保険者が保有する健康データを活用することで、保険サービスの質を向上させるとともに、従業員(被保険者)の健康状態を維持・改善する取り組みです。具体的には、被保険者の健康状態や生活習慣、疾病の発症などの情報をデータとして蓄積し、それらを分析することで個々の健康状態やリスクを評価し、病気の予防や、最適な医療サービスへのアクセスなどにつなげるというものです。

これらの取り組みを実施することで、事業主と保険者の双方にメリットをもたらします。

保険者は、データヘルスで得た情報や知見を事業主に提供することで、従業員(被保険者)の健康経営をより優れたものになるようにサポートすることが可能です。

事業主は、保険者からもたらされた健康データを有効活用することで、効果的な健康経営を実施できます。このように、コラボヘルスは健康経営とデータヘルスを推進する保険者の双方にとって意義のある取り組みであると捉えられます。

コラボヘルスの推進が注目される背景

近年、コラボヘルスやその基となる健康経営・データヘルスが注目されるようになった背景には、労働者の平均年齢の上昇労働生産人口の減少といった社会的問題があります。

労働者の高齢化にともなって、生活習慣病などの健康リスクが増えていくことが見込まれます。健康問題を抱える労働者の増加は、事業主・保険者が負担する医療費の増大につながります。今後、少子高齢化の進行にともなって医療保険制度を支える労働生産人口が減少していく中、負担増は医療保険の持続可能性を脅かす重大な問題です。

このような状況に対応するため、厚生労働省は国民の健康増進を重視し、企業や各保険組合にも積極的な協力を呼び掛けるようになりました。

コラボヘルスやそれに関連する取り組みが注目されるようになったのは、このような流れが背景にあります。また、先述の健康経営・データヘルスの観点から、事業主や保険者が従業員(被保険者)の健康管理に取り組むことによるメリットがあるという認識が広まりつつあることも、コラボヘルスへの注目を後押ししています。

コラボヘルス推進の目的

コラボヘルスは、事業主と保険者が連携してそれぞれの目的を達成するために実施されます。

事業主は、従業員の健康増進を通して従業員のパフォーマンスを上げることを目指します。また、従業員の病気による欠勤や休職・退職を減らすことは、安定的な組織運営のためにも必要です。従業員やその家族の健康に配慮することで、従業員のエンゲージメント向上も期待できます。

保険者にとっては、医療費の削減や、特定保健指導実施率の向上など保健サービスの改善を目的として実施します。健康保険組合連合会が2023年に発表した予算集計によれば、大企業が加入する健康保険組合のうち約8割が赤字見通しという厳しい状況にあるため、特に医療費の削減は喫緊の課題です。

関連記事:特定健診・特定保健指導とは?流れや指導内容、実施率向上の解説

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コラボヘルス推進体制と役割分担

コラボヘルスを推進するには、事業主と保険者がそれぞれの役割を果たし、積極的に従業員の健康増進に取り組んでいくことが重要です。

事業主は、従業員の健康状態を日頃から把握し、病気の予防や健康増進に向けた施策を計画・実行する役割を担います。具体的には、定期健康診断の実施、安全かつ健康的な職場環境の整備、従業員の健康管理およびフォロー、従業員の健康意識に対する啓発活動、保険者に対する健康診断結果の提供などが挙げられます。

保険者の役割は、従業員(被保険者)の健康データを分析し、その情報や知見を企業へ提供することです。これにより、事業者は従業員の健康状態を具体的に把握し、その情報を基に健康経営を推進することが可能となります。また、特定健診を実施したり、生活習慣病のリスクが高い人に対して特定保健指導を行ったりすることも重要な役割です。

コラボヘルスは、一般的に事業者の人事部門や総務部門が中心となって推進します。これらの担当部門が保険者と連携し、定期的な会合などを通して意見交換や情報共有を進めることが必要です。

引用元:厚生労働省 コラボヘルスガイドライン

コラボヘルスを推進する手順とポイント

コラボヘルスを導入し、効果的に推進するには、以下のような手順とポイントを押さえる必要があります。

導入時のポイント

1. 人員確保および組織体制の構築

コラボヘルス導入における最初のステップでは、事業主と保険者の双方で人的リソースの確保と組織体制の整備を行います。基本的には事業主の人事・総務担当者を中心に実施します。

2. お互いの課題の認識合わせ

事業主と保険者は初期段階で双方の課題を共有し、意見をすり合わせながらコラボヘルスの目的や方向性を明確化する必要があります。これにより双方の問題意識が共有され、効果的な連携が可能です。

3. データの取り扱い方法の整備

コラボヘルスを推進するには、従業員の健康データの活用が欠かせません。健康データは、事業主が従業員の健康状況を常に把握するため、またその状況に対して有効な施策を立案するために用います。ただし、健康データはセンシティブな個人情報であるため、慎重に取り扱うためのセキュリティ面も含めた環境整備が必要です。

推進時のポイント

1. 横断的な推進体制の構築

コラボヘルスの推進には、事業主において組織全体の横断的な体制構築が必要です。特に、経営層直轄の体制を構築することで、全社的な取り組みとして健康経営を推進することが可能となります。

2. 両者が持つデータの有効活用

事業主と保険者は、双方が持つ健康データを連携・共有し、それを基にして健康支援プログラムを企画・実施することが必要です。これにより、データに基づいた効果的な健康経営が実現できます。

【健康保険組合が持っているデータ】レセプト・健診データ

  • 医療費総額、一人当たり医療費、疾病大分類(19分類)別医療費
  • (特定健診受診者の)メタボリックシンドローム該当者割合・予備軍割合、血圧・脂質・血糖のリスク保有者割合
  • (特定健診受診者の)喫煙・運動・食事・飲酒習慣
  • (がん検診を実施している場合は)がん検診実施率

【企業(事業主)が持っているデータ】人事データ

  • 有給休暇消化率、病欠日数、残業時間
  • ストレスチェックの集団分析データ

3. 専門業者の関与

専門的な知識や技術が必要な場合、産業医や保健師などの専門家、または健康施策に関するノウハウを持つ業者と連携することが有効です。これにより自社のリソースだけでは解決できない問題にも対処しやすくなります。

4. PDCAを回す

コラボヘルスは、継続的に取り組むべき施策です。PDCAサイクルを回していくことで、施策の効果検証と改善をしやすくなり、継続的な実施へとつなげられます。

5. 健康無関心層への働きかけ

全ての従業員が健康施策へ積極的に参加することが理想ですが、健康に対する関心が低いメンバーが一定数出てしまう可能性は無視できません。事業者は、このような無関心層に対する働きかけを強化し、全体での健康意識の向上を目指す必要があります。

関連記事:健康無関心層を動かすアプローチ ❘ 特徴別の施策とポイント

コラボヘルスの取り組み事例

コラボヘルスの取り組みは、各事業主・健康保険組合でそれぞれ異なる特色を持っています。以下に、いくつかの具体的な事例を紹介します。

花王株式会社/花王健康保険組合

花王グループでは、2008年に経営トップが従業員に発表した「健康宣言」をベースにコラボヘルスを進めています。健康宣言の基本的なメッセージは、従業員およびその家族の健康は企業や社会にとっても大切なものであり、健康づくりは本人だけでなく事業主・健康保険組合が一丸になって取り組んでいくもの、という内容でした。

この理念を実現するために、同グループは5年ごとの中期計画を策定し、事業主と保険組合の定期会合、毎年の「健康白書」発行、禁煙や運動習慣の推奨など、数々の施策を行っています。これらの努力が実り、従業員の健康に改善傾向が現れたほか、生活習慣病に関する1人あたり医療費も低下しています。

参照元:厚生労働省 コラボヘルスガイドライン

株式会社フジクラ/フジクラ健康保険組合

フジクラグループでは、健康データを活用して従業員の主体的な健康意識の向上に取り組んでいます。同グループでは、定期健康診断の結果をはじめ、身長や体重などの日常的な測定記録、医療記録などの健康データを蓄積・分析し、個別最適化された健康増進プログラムを従業員に提供しています。

この施策は、従業員が自分の健康状態をより深く理解して健康意識を高め、自発的に健康的な行動を取るようにすることが狙いです。また、従業員が自発的に健康について考え、実践できる職場環境を構築するために、ワークショップの開催なども行っています。これにより同グループでは従業員の健康意識が高まり、全従業員向けの健康増進プログラムの参加率は96%に至るまでになりました。

参照元:厚生労働省 コラボヘルスガイドライン

SCSK株式会社/SCSK健康保険組合

SCSKは、経営トップが主導して健康経営を推進し、働き方改革や健康増進で大きな成果を上げている事業主です。同社は、長時間労働が常態化している状況では健康的な生活習慣を身につけるのは難しいという認識の下、働き方改革によるワーク・ライフ・バランスに取り組んでいます。

そのために、「残業時間の削減や有給取得率が一定の目標を満たした部門に対してはインセンティブを支給する」「月80時間以上の残業をする場合は社長の承認を必要とする」など、同社の本気度が明確に伝わる施策を実施しました。その結果、残業時間は順調に減り、それと相関してメンタルヘルス不調による休職者数も減少するなど、働き方改革と健康増進を両立させることに成功しました。

また、同社の健康保険組合は、主要事業所の健康増進キャンペーンと同時期に喫煙対策や疾病予防の取り組みを実施することで、相乗効果を生み出しています。2015年度からは事業所との連携強化を目的として、理事長や顧問医などを主要事業所とで兼務する体制を構築しているほか、定例会や意見交換の場なども新設しました。

参照元:厚生労働省 コラボヘルスガイドライン

まとめ

コラボヘルスは、事業主と保険者が協働して効果的に従業員の健康増進を図る取り組みです。コラボヘルスは事業主の健康経営と保険者のデータヘルスの双方にとってメリットがあります。今後、従業員の高齢化にともなって医療費の増大が進んでいくことが予想される中、コラボヘルスの重要性はますます高まっています。

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