腰痛の原因とは
新型コロナウイルスの感染拡大が起こった2020年以降、テレワークを導入する企業は増加しています。テレワークに移行したことで通勤時間がなくなり、時間を有意義に使えるといった声が増えている一方、働く環境の変化により、慢性的な運動不足やこれまで起こらなかった身体の変調を心配する声も多く聞きます。
さまざまな不調がある中、代表的なものが腰痛です。テレワーク以前には腰痛がなかった人でも、環境が変わったことで腰痛に悩まされている人は数多くいます。
腰痛を引き起こす原因はいくつかありますが、まずは以下のチェックリストを確認し、自身がどれだけ当てはまるかを数えましょう。
【チェックリスト】※当てはまる数が多い方は要注意です。
□ 座り仕事、PC作業が多い
□ 猫背の自覚がある
□ あぐらや座椅子に座って作業している
□ 椅子に座る時背もたれを使う
□ 椅子に座る時足を組む癖がある
□ 椅子に座った時に足の裏が床につかない
□ 30分以上座り続けていることが多い
□ 運動不足を感じている
□ 目が疲れやすい
□ 手の指先がつま先に届かない
□ 湯船に入る習慣がない
□ ストレスを感じることが多い
上記の通り、腰痛の主な原因としては床や椅子への座り方や生活習慣によるものが大きいです。
テレワークの環境下においては、長期間にわたってデスクワークに適していない環境で働くことは身体に支障をきたしかねません。やがて腰痛を引き起こし、思うように仕事が進まず業務効率が下がってしまう恐れもあります。
ここからは、腰痛の主な原因となる「姿勢」「運動」「ストレス」の3項目に絞って詳しく解説します。
姿勢が悪い
姿勢の悪さは腰痛を引き起こす大きな原因です。テレワークで長期間座った状態が続くことで、首を前に出す前傾姿勢、いわゆる「猫背」の姿勢になってしまうのです。そのような姿勢で作業することにより、肩や首、腰などあらゆる箇所に負担がかかります。また、肺を圧迫するため呼吸も浅くなり、必要以上に疲れやすくなります。
以上のような姿勢の悪さからくる腰痛に関しては、適切な対策を取ることで解消できます。
まずは、「椅子の背もたれにもたれすぎないようにして座る」「両足はきちんと地面につけるように座る」「床・椅子どちらの場合でも骨盤を立てるようにして座る」のように姿勢を意識することが大切です。
また、座りっぱなしの状況を打開するために1時間に1回程度は立って歩いたり、軽いストレッチを施したりといったことを意識的に行うことが必要です。
運動不足
運動不足も腰痛を引き起こす原因になります。テレワークへの移行においては、これまで往復の通勤や会社内の移動など、一定の歩行がなくなることで、運動機会が減ったという人も多いでしょう。
スポーツ庁が公表している令和3(2021)年度の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、普段運動不足を感じるかの問いに対して、「大いに感じる」または「ある程度感じる」と答えた人の割合が77.9%に上りました。
運動不足が慢性化することで、腰痛や肩こりといった身体的な不調や筋力の低下を招くほか、生活習慣病のリスクも上がります。
対策としてウォーキングや軽いジョギングといった有酸素運動や、ジムに通って運動を習慣的に行うことが望ましいしょう。なかなか時間が取れない場合でも、休憩中に軽く筋トレやストレッチをするだけでも効果が得られます。
精神的なストレス
腰痛は身体的な要因だけでなく、心理面が原因となることもあります。「腰痛診療ガイドライン2019」(監修・日本整形外科学会、日本腰痛学会)によると、「腰痛の治療成績と遷延化には、心理社会的因子が強く関連する」ことが示唆されています。
イライラや緊張といった身体にストレスがかかった状態が長く続くことで交感神経が優位になり、血管が収縮して血流が悪くなります。長時間血流の悪い状態で過ごすことで、より一層痛みも感じやすくなるのです。
また、ストレスを長時間感じることで、脳内物質のバランスが崩れて不調を引き起こし、ほんの少しの痛みでも強く感じるようになります。その強い痛み自体がストレスになるため、より状態が悪くなるといった負の連鎖も起こりかねません。
心理的ストレスへの対応策としては、どういった時にストレスを感じるのか、体調や気分の変化を継続的に記録する「セルフモニタリング」が有用です。これは、自身の心理状態や体調の変化を客観的に分析することで、ストレスを回避しやすくするための方法です。
たとえストレスをゼロにすることが難しいとしても、「規則正しい睡眠を取る」「趣味を楽しんでリフレッシュする」「ヨガなどの運動を取り入れる」といったことを行うだけでもストレスの解消につながるでしょう。
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正しい姿勢のためのストレッチ「キャット&ドッグ」
ヨガで取り入れられている動きでもある「キャット&ドッグ」は正しい姿勢をキープするために効果的な動きです。
肩甲骨や胸椎、骨盤の動きがよくなることで、腰痛予防や、姿勢改善につながります。
運動の方法が、犬や猫の姿勢に似ている事からこの名称がついています。
寝る前に姿勢改善「ドローイン」
毎日寝る前に「ドローイン」をすると、睡眠の質を高めるだけでなく、腰痛予防にもつながります。
ドローインではお腹を凹ませたり膨らませたりすることでインナーマッスルを鍛えることができます。
いつでも行うことができ、毎日寝る前に布団の中でもできるため、習慣化することで姿勢改善・腰痛改善につながります。
テレワークによって進む健康課題
テレワークが推進されることで従業員はどのような健康課題を抱えているのでしょうか?
テレワークを推進することにより、通勤時の運動の機会が失われ運動量の減少が起きました。そして、このような運動不足から腰痛がテレワークにより引き起こされています。
「2019年 国民生活基礎調査の概況」によると、病気やけが等で自覚症状のある男性が抱える症状の中で最も回答者が多かったのが腰痛です。女性においても、腰痛と回答した人の割合は2番目に高い結果となりました。
また、病気やけが等で自覚症状のある人を年齢で見てみると、10代が一番低く、年齢が上がるごとにその割合は高くなっていました。
腰痛以外に回答のあった症状は「肩こり」「手足の関節が痛む」「体がだるい」などが挙げられました。「肩こり」に関しては男性では2番目、女性では最も回答した割合が高い結果となりました。
テレワークによる運動不足の影響で症状が悪化しないように日ごろからの対策が必要となります。
参照:厚生労働省「国民生活基礎調査の概況 1 自覚症状の状況」2019年
3人に1人が「肩こり・腰痛」
RIZAPの調査で「Q5.コロナ前と比較して、新たに出てきた・増えた従業員の健康面での課題、または相談を受けた項目」への回答として、「運動不足」「精神的なストレス」に続いて3番目に回答が多かったのが「肩こり・腰痛」です。
コロナ前後で同じ質問への回答等を比較してみると、「肩こり・腰痛」と回答した割合が13.5ポイントの上昇となっており、顕著に増加の傾向が現れていました。
さらに、「2022年 テレワークによる健康への影響」の調査において、「健康面に変化あり」と回答した中で、「肩こり・腰痛」と回答した人の割合は38%でおよそ3人に1人が肩こりに悩んでいる現状だということができます。
参照:RIZAP「ニューノーマル時代の従業員の心と体の健康管理アンケート結果レポート」
生産性・モチベーション向上のための取り組み
対面で接する機会が少なくなったことにより、テレワーク中の従業員の生産性やモチベーションを向上させる取り組みはより重要になりました。
そんな中、企業に「Q.テレワーク中の従業員の生産性・モチベーション向上のために実施していることを教えてください。」というアンケート調査によると、「テレワークのための手当支給」を行っている回答が最も高い割合になりました。
さらに、従業員の反応が良かった取り組みにおいても「テレワークのための手当支給」が他の施策を差し置いて、一番好評という結果でした。
※参照:RIZAP「テレワーク中の従業員の不調と対策結果レポート」
実際の手当の内容に関して、同調査によると手当を行っている企業の中で1か月あたりの手当額で最も回答が多かったのが、「5千円以下」、ついで、「1万円以下」という結果でした。
また、手当の用途では在宅ワークによる必要経費として「通信費」と「水光熱費」がほぼ同じ割合で多い回答となりました。また、健康課題への対応として「健康アイテム」という回答も見受けられました。このような手当を行うことで、企業も従業員のテレワーク環境の改善に取り組んでいます。
また、テレワークを実施している企業ほど健康対策を行っています。
健康施策に取り組んでいるかというアンケートでは、「何もしていない」と回答した企業の中で、テレワークを一部または全社で実施している企業と比較してテレワークを実施していない企業は37.7ポイント高く回答されていました。
健康施策の例としては運動不足を補うための「健康セミナー・運動セミナー」の開催や「歩数や歩行距離の競争」などが挙げられます。
このような施策は従業員から好評だった健康施策でも1番と2番に挙げられており、運動不足対策の施策は従業員からのニーズがあると言えます。
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企業に求められる腰痛対策
企業が従業員の生産性向上に対して取り組む際に注目したいのが「プレゼンティーイズム」です。
「プレゼンティーイズム」とはWHO(世界保健機関)によって提唱された、健康問題に起因するパフォーマンスの損失を表す指標です。言い換えるのであれば、会社を休むほどではない心身の不調により、思うようなパフォーマンスが行えない状況と言えます。
プレゼンティーイズムの原因としては腰痛、肩こり、頭痛といった身体的不調のほかにストレスなどの精神的不調も挙げられます。
また永田智久講師が2018年に発表した原著論文(Nagata T, Mori K, et al. Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers. J Occup Environ Med.)では、『肩こり・腰痛』が日本人勤労者の労働生産性を低下させる主要因であることが明らかになりました。
このように従業員の生産性が低いプレゼンティーイズムは企業として取り組むべき課題と言えます。
この課題に対する取り組みとしては、職場環境の改善、健康経営オフィスを取り入れたり、根本的に運動の機会を創出する支援等が効果的でしょう。
※参照:産業医科大学、森晃爾教授・永田智久講師が、肩こり・腰痛対策を切り口に企業の生産性向上を支援するバックテック顧問に就任
運動のキッカケを作る
従業員に対して運動のキッカケを作ることは腰痛改善のみならず、生産性向上に繋がる取り組みです。
運動のキッカケを作るために企業主催の運動会やウォーキング大会、ボウリング大会などのスポーツイベントを開催することで、運動のみならず従業員同士のコミュニケーションの場としても活用できます。
運動セミナーを実施する
企業主導で運動セミナーを開催することで運動不足の解消に効果的です。さらに、運動セミナーの中には腰痛や肩こりなど直接的に健康課題の解決を期待できるものもあります。
例えばテレワークの従業員向けに肩こり腰痛予防の内容などがあります。従業員の抱える健康課題に応じたセミナーを開催するといいでしょう。
運動習慣定着をサポートする
運動は一度ではなく、習慣化することでより効果を発揮します。
従業員が運動を習慣化していくためにはオフィスの環境や制度を整えることが重要です。また、運動の習慣定着をサポートすることはプレゼンティーイズムの改善にもつながります。
具体的な取り組みとしては朝礼の際にラジオ体操を取り入れたり、スポーツクラブへの補助金、福利厚生の整備などが挙げられます。
まとめ
テレワークの普及に伴い、環境が変化したことで腰痛になる人が増えています。姿勢の悪さや運動不足、精神的なストレスが腰痛の主な引き金になると考えられます。これらの要因を解消するために、姿勢の見直しや運動習慣の実践、ストレスマネジメントといった対策をぜひ取り入れましょう。
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