運動不足の影響
運動不足のリスクはさまざまに謳われていますが、肥満や生活習慣病など従業員の健康被害を生むだけでなく、企業の経営にも大きな悪影響を与えます。運動不足によるリスクを軽減するには、具体的な影響を把握して、企業の実態に合わせた対策をすることが大切です。
まずは、運動不足が与える影響を詳しくご紹介します。
健康リスク
運動不足は、生活習慣病の発症リスクを増大させます。平成8年12月17 日公衆衛生審議会意見具申「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」によると、生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されています。
引用:https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/0812/1217-4.html
運動不足が招く生活習慣病には、インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等が挙げられています。また、心筋梗塞や脳卒中などの命を脅かす疾患も発症しやすくなり、死亡リスクが高まるので注意が必要です。
平成30年9月に厚生労働省健康局健康課より発表された「身体活動・運動を通じた健康増進のための厚生労働省の取組み」のなかでは、日本では運動不足が原因で毎年5万人が死亡しているとされています
さらに、厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」の統計では、主な死因別死亡数の約56%を生活習慣病が占めていることが分かります。
運動不足は、身体面だけでなく精神面にも大きな影響を与えます。運動不足によって自律神経が乱れると、気持ちが不安定になり、不安やイライラなどを感じやすくなります。また、不眠や疲労感にもつながり、うつ病やその他の精神疾患のリスクを高める危険性があるのです。
経営リスク
運動不足によって従業員へ健康被害が生じると、企業経営にも大きな影響を及ぼします。従業員が生活習慣病や精神疾患を患ってしまえば、離職率の増加や労働力の減少につながる危険性も高まるでしょう。
このような問題を未然に防ぐためには、運動不足が企業に与える影響を理解し、実情を把握したうえで対策に取り組むことが重要です。
安全配慮義務違反
運動不足の影響として、企業が従業員へ果たすべき「安全配慮義務」に違反するリスクがあります。
安全配慮義務とは、労働契約法の第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められている内容のことです。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128
安全配慮義務に違反した場合、民法第415条第1項に定める「債務不履行」による損害賠償を請求される可能性があります。同条同項には「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定められています。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
万が一、運動不足によって従業員の心身に被害が生じてしまうと、生命や身体等の安全を確保できていないとして、安全配慮義務違反となりかねません。そうならないよう、従業員個人に全面的な健康管理を任せるのではなく、企業としても健康施策を実施することが大切です。
業績の悪化
運動不足によって従業員が病気などの健康問題を抱えると、仕事のパフォーマンスが下がり、業績の悪化につながります。
従業員が健康問題を抱えた状態で出勤すると、十分なパフォーマンスを発揮できず業務の生産性が低下します。この状態を「プレゼンティーイズム」といいます。プレゼンティーイズムが悪化すると、従業員が欠勤してしまう「アブセンティーイズム」を招きます。
プレゼンティーイズムを放置すると、アブセンティーイズムによって結果的に労働力が不足します。その不足分をカバーする従業員の負担が増えることで、その従業員も心身の健康に異常をきたすなど、さらなる悪影響につながるリスクが高まるのです。
そうなれば、既存の仕事を回せなくなったり、新規の仕事を受注できなくなったりと、業績にも大きな悪影響を及ぼします。このように、運動不足の解消は従業員個人だけでなく、企業全体で取り組むべき課題なのです。
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運動不足の実態
従業員に十分なパフォーマンスを発揮してもらい、企業の経営を安定させるための大きなカギが、運動不足の解消です。
厚生労働省の「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、「1回30 分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している」との条件に該当する運動習慣のある人の割合は、男性で33.4%、女性で25.1%でした。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
運動不足の人は、男性は40代、女性は30代が最も多いというのが大きな特徴です。また、男女ともに70歳以上の人が最も運動習慣があるということが分かりました。
ここから運動不足の実態をより詳しく理解し、自社の実態と照らし合わせることで、必要な対策を考えていきましょう。
新型コロナウイルスによる影響
RIZAPは、企業の健康管理担当者を対象としたインターネット調査を2021年・2022年に実施しました。
※2021年6月 N=167「テレワーク中の従業員の不調と対策」
※2022年4月 N=367「ニューノーマル時代の従業員の心と体の健康管理」
これによると、テレワークを導入している企業のうち、テレワーク普及の前後で、従業員の健康面の変化があったと回答した企業は2021年・2022年ともに約8割でした。
健康面の変化の内容では、2021年・2022年連続して「運動不足」が1位になっており、続いて「メンタルヘルス不調」と心身の健康への影響がみられました。
健康二次被害
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、外出自粛やテレワーク普及などの新しい生活様式を取り入れることで、運動不足のリスクが高まりました。ここから、身体的および精神的な健康を脅かす健康二次被害が懸念されています。
成長期における子供の場合は身体の発育や発達への影響、社会人はテレワークやデスクワークによる身体活動量の低下などが、健康二次被害として挙げられます。特に、中高年齢者は免疫力の低下による生活習慣病等の発症や、筋力低下による転倒・骨折なども危惧されているのです。
スポーツ庁では、日常的に適度な運動に取り組むことは、健康二次被害の予防はもちろん、免疫力を高めてウイルス性感染症を予防することにも役立つとしており、意識的な運動を推奨しています。
参照:https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/jsa_00010.html
運動不足の確認
運動不足を解消するには、実態に合わせた取り組みが必要です。自社の従業員の運動不足状況を把握することで、効果的な運動施策を考えていきましょう。
運動不足の確認方法として、健康診断の活用と運動不足チェックリストをご紹介します。
健康診断の活用
労働安全衛生法第66条により、企業が従業員に対して健康診断を行うことが義務付けられています。また、従業員も健康診断を受けることが義務付けられているので、必ず実施しましょう。
参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057
肥満や高血圧などの健康診断の結果から、運動不足の状況を確認できます。結果をきちんと確認して体の状態を知ることは、生活習慣病の予防や病気の早期発見にもつながります。
また、定期健診で運動に関する質問をするのも良いでしょう。たとえば「1 回 30 分以上の軽く汗をかく運動を週 2 日以上、1 年以上実施していますか?」など、より具体的な質問をすることで、運動習慣の有無を確認できます。
運動不足チェックリスト
運動不足チェックリストの活用も実態把握に効果的です。
厚生労働省による国民栄養調査では、運動習慣のある人を「1回30 分以上の運動を、週2回以上実施し、1年以上継続している人」と定義しています。また、成人における現状と目標も定めているので、それらの項目を基準にチェックリストを作成しても良いでしょう。
たとえば、以下のような項目に該当するかどうかでも把握できます。該当項目が多いほど運動不足といえるため、改善が必要です。
- テレワークやデスクワークが多く、ほとんど動かない
- 階段はほぼ使わず、エレベーターやエスカレーターを使うことが多い
- 1日の歩数は5,000歩以下
- 少し階段をのぼっただけで息切れがする
- 動き出す際に「よっこいしょ」と言ってしまう
運動の効果
運動不足による影響は、健康リスクから経営リスクまで広範囲に及びます。では、運動がもたらす効果にはどのようなものがあるのでしょうか。ここからは、運動が企業にもたらす効果を詳しく紹介します。
従業員の健康状態の改善
まず、運動によって従業員の健康状態が改善されることで、従業員の心身を守れます。従業員の健康を保持・増進することは、安全配慮義務を果たし、仕事のパフォーマンスを向上させるためにも大切です。
平成24年に武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科の内藤義彦氏が提出した「疾病予防および健康に対する身体活動・運動の効用と実効性に影響する要因」によると、運動の効用は16あるとされています。
身体面と精神面それぞれの効果を正しく理解し、対策の参考にしてみてください。
身体的な効果
「疾病予防および健康に対する身体活動・運動の効用と実効性に影響する要因」で記載されている身体的な効果は11あります。
- 動脈硬化性の病気、特に心筋梗塞の危険性を減少
- 体脂肪を減らし体重のコントロールに有効
- 脂質異常症(低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症)の予防・改善に有効
- 高血圧の予防・改善に有効
- 糖尿病やメタボリックシンドロームの予防・改善に有効
- 骨粗鬆症による骨折の危険性を減少
- 筋力を増し、色々な身体活動の予備力が向上
- 筋力とバランス力を増やし、転倒の危険性を減少
- 乳がんと結腸がんの危険性を減少
- 認知症の予防・改善に有効
- 睡眠障害の改善
このように、運動は生活習慣病の改善に役立つ効果が多く期待できます。運動によって身体活動量が増えると、エネルギーがたくさん消費されます。エネルギー消費量の増加は代謝量アップや血流の改善をもたらし、肥満の予防・改善のほか、血糖値や脂質、血圧の状態の改善も期待できるのです。
精神的な効果
運動で体を動かすことは、精神的ストレスの発散にもつながります。「疾病予防および健康に対する身体活動・運動の効用と実効性に影響する要因」で記載されている身体的な効果は2つあります。
- ストレスの解消、うつ病の予防・改善に有効
- シェイプアップし、自己イメージが改善
運動によってストレス発散やセルフイメージ・自信の向上ができると、仕事面においても、集中力や目標達成能力の向上といった良い影響を及ぼします。また、従業員同士で運動不足解消に取り組むことは、従業員同士のメンタルヘルス維持やコミュニケーション促進にも効果的です。
楽しく生き生きと働く従業員が増えることは、外部へ良いイメージを与え、社会的信頼の獲得や企業価値の向上にもつながります。
企業の経営リスクの低下
次に、従業員の運動不足を解消することで、企業の経営リスクが低下します。
業績の向上に従業員の貢献は必要不可欠です。運動増進によって従業員の健康を守り、ひとり一人のパフォーマンスが向上することで、貢献度が増して業績が向上しやすくなります。
プレゼンティーイズム予防・解消
健康問題によって従業員の生産性が低下する状態である「プレゼンティーイズム」の悪化は、最終的に従業員の欠勤といったアブセンティーイズムにつながってしまいます。
プレゼンティーイズムを招く原因例として、不眠やうつ病などのメンタル不調や、頭痛、腰痛、肩こりなどが挙げられます。従業員の生産性を上げるためには、このような健康問題を改善することで、プレゼンティーイズムを解消していくことが重要です。
厚生労働省が平成29年7月に発表した「コラボヘルスガイドライン」では、国内3企業の健康関連総コストのうち、プレゼンティーイズムによるものが77.9%と、企業に大きな影響を与えていることがわかりました。
運動によるプレゼンティーイズムの解消は、従業員のパフォーマンス向上や、労働力確保、コスト削減など、企業の経営リスクの低下に効果的です。
コミュニケーションの活性化
従業員同士で運動をすることでコミュニケーションが活発になり、仕事がしやすくなる効果も期待できます。
大規模な企業では、部署間や支店間でのコミュニケーションが少ないケースも多いでしょう。従業員が参加できる運動セミナーの開催やトレーニングスペースの設置をすれば、仕事以外でのコミュニケーションを取るきっかけになります。社内コミュニケーションが促進されて仕事が進めやすくなれば、パフォーマンスが向上し、企業の業績にも良い影響を及ぼすでしょう。
テレワークの普及等でコミュニケーション不足が問題視されている今こそ、従業員同士で運動をしたり、運動という共通の話題を持ったりすることによる社内コミュニケーション促進が必要とされています。
メンタルヘルス対策
運動は従業員へ精神的な安定をもたらす効果があるだけでなく、従業員同士のコミュニケーションを活発化させることでメンタルヘルス対策にもなります。
運動は気分転換やストレス発散に有効です。仕事のストレスで気分が落ち込んでいるときに効果的なだけでなく、自律神経が整うことで不安やイライラを感じにくくなる効果も期待できます。さらに、社内コミュニケーションが活性化されれば、職場の雰囲気や人間関係が良好になり、安定したメンタルヘルスを保てるでしょう。
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運動不足解消に向けた取り組み
では実際、企業が従業員の運動不足に対してどのような対策ができるのでしょうか。ここでは従業員の運動不足解消に向けて企業が行うべき取組みを紹介します。
運動機会のキッカケを作る
運動不足の自覚があり改善する意識がある人は、少しの働きかけで自主的に運動習慣を見直してくれることが期待できます。しかし、自分の健康に無関心な人や、運動不足を体感できていない人などには、企業側から積極的に運動機会を作る必要があります。
例えば、企業主催の運動会やウォーキング大会、ボウリング大会などのスポーツイベントなどです。
これらのイベントでは運動の大切さやスポーツの楽しみなどを知ってもらうことが重要です。特にウォーキングイベントなら運動が苦手な人でも参加しやすく、受け入れやすいでしょう。
しかもこれらのイベントは職場でのコミュニケーションを増やすキッカケにもなり、孤独を感じやすいテレワークを推奨している企業にもおすすめです。
また、定期的に健康情報を発信したり、参加型の健康セミナーを開催したりするなど、さまざまなアプローチで多くの従業員に運動機会のキッカケを作ることが大切です。
運動習慣定着をサポートする
運動は一時的に行えばよいわけでなく、習慣化させなければ意味がありません。従業員が一定時間以上の運動を長期的に行っていくには、オフィスの環境や制度を整える必要があります。
身体活動・運動の促進は運動の習慣定着をサポートするだけでなく、プレゼンティーイズムの改善にもつながります。
プレゼンティーイズムによる一人当たりの年間損失額の1位は頸部痛・肩こり、3位は腰痛となっています。これらの症状に対して、デスクワーク環境の改善に加えて、定期的な身体活動が役立つと考えられます。
運動機会の促進と習慣化に向けて、下記のような施策を検討していきましょう。
- 階段の積極利用の促進
- 会議や研修などで身体活動や運動を取り入れる
- 朝礼の際にラジオ体操を取り入れる
- ウォーキングイベントを継続的に実施する
- 運動会などのスポーツイベントの実施を繰り返す
- 運動サークルの運営
- 徒歩や自転車での通勤環境の整備
- スポーツクラブへの補助金、福利厚生の整備
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運動不足解消に成功した事例
運動習慣者割合が増加 │ 株式会社ベネッセホールディングス様
ベネッセホールディングスは、比較的若い従業員が多く、病気の人が多いわけではありませんが、生活習慣病予備軍については気を付ける必要があり、過去に生活習慣病の予防としてポピュレーションアプローチをいろいろ実施してきました。
しかし、健康無関心層が集まらず毎回関心のあるメンバーしか集まらないなど健康施策に関して苦戦を強いられている現状を変えるため、集客に好影響がありそうだと判断してRIZAPの健康セミナーを導入しました。
参加満足度は97.5%と高く、2019年度以降、参加申込人数は翌年に4倍、翌々年には9倍もの推移を遂げる結果となりました。
2020年度より運動不足に悩む企業が増えている中、上記の取り組みの末「運動習慣がある」と回答した割合が毎年向上しています。
- 2019年度
対面形式でのRIZAP健康セミナーを開催
- 2020年度
コロナ禍につきオンラインでRIZAPの「5minトレーニング」という短時間で運動を行うセミナーを10回連続 (10営業日連続)で開催
- 2021年度
毎週金曜日のランチタイムに10週連続でにRIZAPの「5minトレーニング」を開催
および女性向けの健康セミナーの開催
健康増進月間でテレワーク中の運動不足解消 │ NTTテクノクロス株式会社様
運動不足の解消と同時に、テレワークにより従業員同士もなかなか会えない時期だからこそコミュニケーションの促進を目的に「健康増進月間」を企画しました。
LIVE形式のRIZAP健康セミナーを含め、延べ200名以上が参加し、想定以上の盛り上がりとなりました。
『健康増進月間』ではオフィスに出社している従業員は会議室から参加し、テレワークのためオンラインで参加している従業員とともにセミナーを視聴したり、5minトレーニング動画をみるなどしてイベント形式でトレーニングを行う企画を複数回立てて実施しています。
健康セミナーや5minトレーニングに参加した人も、参加できなかった人もRIZAPの共通話題で盛り上がり、運動不足の解消だけでなく社内コミュニケーションの活性化にも繋がりました。
まとめ
運動不足は、従業員の健康から企業の経営まで大きな影響を及ぼします。運動不足解消は、従業員の心身を守り、会社を存続させるための重要なポイントです。
自社における従業員の運動不足の実態を把握し、運動不足解消の対策に取り組むことで、生産性や業績の向上を目指していきましょう。
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健康施策を検討する際に、自社にとって最適な健康施策をどのように施策を組み立てるのか、どのような施策が適切なのか等お悩みの方も多いのではないでしょうか?
そこで、健康施策に取り組むご担当者様に向けた実践に関する手引書「従業員の健康取り組みガイド」をお届けします。
2017年の法人事業発足以来人と組織を元気にするお手伝いをしてきたRIZAPが、ご担当者様の一喜一憂に向き合い、寄り添ってきた中で培った健康施策の知恵とノウハウを本書にまとめました。
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