従業員の健康管理を行う目的・義務
近年日本では企業戦略として従業員の健康管理を行う「健康経営」に取り組む企業が増えていますが、従業員の健康管理はどのような目的・背景で行われているのでしょうか。健康経営以前に従業員の健康管理が必要な理由から、なぜ今日の企業において健康経営が必要とされているのか、を解説していきます。
健康管理に関する法律「安全配慮義務」
「従業員の健康管理は従業員自身が行うべきだ」という考えがあるかもしれませんが、企業には労働契約法第5条において従業員の心身の健康や安全を守る「安全配慮義務」が課せられています。
<労働者の安全への配慮>
第五条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用:労働契約法
これは、企業が健康経営に取り組む上で必ず理解しておかなければならない項目です。安全配慮義務に関連する具体的な義務について解説します。
適正労働条件措置義務
適正労働条件措置義務は、従業員が過重労働によって心身の健康を損なわないように、労働条件を適正に整備する義務です。
例えば、労働時間・休憩時間・休憩場所・人員配置などの条件が該当します。
健康管理義務
健康管理義務は、従業員の心身における健康状態を企業が把握・管理する義務です。
労働安全衛生法では、雇用時や1年ごとの健康診断を企業に義務づけています。また、健康診断の結果で従業員に何らかの健康問題が発見された場合、企業はその従業員に適切な措置を講じることが求められています。
適正労働義務
適正労働義務は、従業員の健康状態や持病、病歴などに配慮した上で業務を割り振る義務です。
従業員の健康を無視して仕事をさせることは安全配慮義務違反に該当します。心身の不調や持病などを考慮した上で業務を配分する必要があるほか、不測の事態に備えてバックアップ体制を整備することも求められます。
看護・治療義務
看護・治療義務は、従業員が業務によって心身の健康を損なった場合、企業が責任を持って看護や治療を行う義務です。
健康被害と業務の因果関係が明らかな場合はもちろん、その可能性が想定されるだけの場合にも求められます。
業績を底上げする「健康経営」
企業が従業員の健康管理を適正に行うことは、法律上の義務であるだけでなく、労働生産性の向上や企業イメージのアップ、株価の向上など、企業にとっても経営上のメリットがあります。健康経営は、このメリットに着目し、企業戦略として従業員の健康増進を図る施策です。
健康経営が日本において重要視されるようになった社会的背景としては、急速に進行している少子高齢化問題が第一に挙げられます。経済産業省が公表する「健康経営の推進について」によれば、このまま少子高齢化が進行していけば、日本の人口は2050年には9,708万人と1億人を割り込み、2100年には4,959万人まで減少する見込みです。高齢者の人口比率も2050年時点で38.8%と、約4割に迫ることが予想されています。
このような状況では当然ながら労働人口が減少するため、企業が今後も生産力を維持して事業を存続していくには、従業員一人あたりの生産性向上が欠かせません。また、高齢の従業員が増加することで、企業が負担する医療費(社会保険料)の増加も懸念されます。
このような将来的な社会問題も反映して、健康経営に取り組む企業が現在増えています。
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関連記事:【徹底解説】健康経営の取り組み方│企業にもたらす効果や事例
従業員の健康管理のメリット
従業員の健康に取り組む企業が増えているのは、企業を支える従業員が活力を持って健康的かつ長期的に働き続けることを可能にするための施策として「従業員の健康に投資」する必要があるからです。
この投資によって企業が得られるメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
【メリット①】アブセンティーイズム・プレゼンティーイズムの解消
健康経営に取り組むメリットとしては、「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーズム」の解消がまず挙げられます。
アブセンティーイズムは、健康上の問題によって働けなくなり欠勤に至ることを意味します。プレゼンティーイズムは、健康上の問題を抱えたまま就業することによって生産性に悪影響が出ることを意味します。
関連記事:【まとめ】プレゼンティーイズムとは?測定と改善対策の具体例
以下に挙げる多くのメリットは、この2つの問題の解消から派生して生じるメリットといえるでしょう。
【メリット②】離職率の改善
健康経営に取り組むことで、健康上の理由による欠勤や離職を減少させる効果が見込めます。人員の頻繁な離脱は他の従業員の業務負担を増やし、さらなる離職を招くかもしれません。
離職率の高さから、世間に「ブラック企業」とみなされれば、次の人員を確保するのにも苦労することになるでしょう。健康経営の実施は、こうした悪循環の原因を根本から断ち切ることに寄与します。
関連記事:定着率を上げる方法とは|計算式と効果的な取り組み
【メリット③】労働生産性の向上
健康経営によって、従業員が心身ともに良好な健康状態で業務に当たれるようになれば、労働生産性の向上も期待できます。
心身に不調を抱えたままでは、従業員が能力をフルに発揮することは難しくなるでしょう。健康経営に取り組むことは、従業員が万全の状態で仕事に集中できるコンディションを整えることでもあるのです。
関連記事:生産性とは?向上につながる取り組み事例、課題
【メリット④】従業員の活力向上
健康経営によって、従業員がより前向きな気持ちで生き生きと働くことも期待できます。従業員の健康に配慮した施策を実施することで、従業員は会社へのエンゲージメントを高めることになるでしょう。
また、健康経営によって従業員が心身ともに余裕を持って働けるようになれば、職場の雰囲気が改善することも期待できます。
関連記事:エンゲージメントを高める方法|具体策と企業事例
【メリット⑤】社会評価と企業イメージ向上
健康経営の実施をPRすることで、自社の社会的評価や企業イメージを高めることも可能です。例えば経済産業省は「健康経営優良法人」の認定制度を設置したり、東京証券取引所と連携して「健康経営銘柄」を認定したりして、健康経営を推進しています。
こうした認定を公的に受けることができれば、社会から「ホワイト企業」として認知されやすくなるでしょう。良い企業イメージは業績の向上や優秀人材の確保にもつながります。
関連記事:企業イメージ向上のための3つの方法、取り組み例
【メリット⑥】医療費の削減
健康経営によって健康状態が改善されることによって、従業員が診療を受ける機会は減っていきます。これにより、企業が負担している従業員の社会保険料をコストダウンすることが可能です。
【メリット⑦】リスクマネジメント
健康経営に取り組むことは、リスクマネジメントの面でも重要です。例えば従業員が心身の不調を抱えたまま仕事をしている場合、集中力などの不足によって重大なミスや事故が生じる可能性は増大します。
また、SNSによって誰もが情報発信できる現代では、不適切な労働条件や職場環境はすぐに拡散され、企業イメージに大きなダメージを受けることも考慮に入れなければなりません。
【メリット⑧】労働災害の予防
リスクマネジメントと関連して重要なのが、労働災害の予防です。業務上の重大な事故や過度な業務負担による過労死などの労働災害は、損害賠償などの訴訟に発展する恐れがあり、経済面においても社会評価の面でも企業に大きな損害をもたらします。
健康経営の実施によって職場に潜む健康や安全上のリスクを早期発見・早期対応することで、こうした労働災害を予防できるのです。
従業員の健康増進のための取り組み
従業員の健康を増進するために、企業は具体的に何をすればよいのでしょうか。従業員の健康を増進するためには、定期的・長期的に従業員に働きかける必要があります。中でも、従業員への直接的なアプローチは欠かせません。
健康診断を100%の従業員に実施する
企業や組織は、従業員に健康診断を受診させなくてはなりません。
従業員の健康課題を探るためでなく、従業員の健康に対する取り組みの中で健康診断受診率を100%にするということはそれだけで従業員の健康への取り組みの一つとなります。労働安全衛生法第44条では、企業や組織はそこで働く従業員に健康診断を実施しなくてはならないと定められています。
企業や組織は健全な運営を行う必要があり、健康診断はその健全な運営を支える従業員の健康を守るための根幹となります。
健康に関する学習機会を定期的・長期的に設ける
従業員の健康増進には、企業(人事や総務、健康管理担当者)が従業員に対して健康情報に触れる機会をなるべく多く提供し、健康の維持増進を計ることが重要です。
「今は関係ない」「自分のことではない」と思ってしまうと、一度聞いた内容でも関心が薄れてしまい、あまり重要視できないことがあります。まさに、「対岸の火事」のことわざの通り、向こう岸の火事は自分に災いをもたらす心配のないという意味です。
健康増進に関しても同様です。健康な時に疾病や薬のことを聞いても、なかなか自分事としてとらえにくいものです。このことを踏まえ、長期的に複数回、テーマを変えて研修機会を設けることが重要です。
「昨年健康セミナーをやったから今年はもういいだろう」と考えるのではなく、テーマをや登壇者(話し手)を変えて年に数回研修機会を作るなど、健康情報に高頻度で触れる機会を作りましょう。
そうすることで着実に健康意欲は高まり、健康風土が醸成されていきます。健康セミナーや健康増進のプログラムを検討し、定期的に実施していきましょう。
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健康リテラシーを高める
高い健康リテラシーを身に着け、適切な行動ができる従業員が増えることで、社内全体の健康レベルは底上げされます。
関連記事:健康リテラシーとは?従業員の向上のための取り組み・事例
健康増進を進めることで、アブセンティーイズムやプレゼンティーイズムが改善され、結果的には労働生産性の向上にもつながります。健康リテラシーの向上は、従業員一人ひとりの意識に働きかけ、行動変容を促す、まさに草の根運動のような取り組みになります。
社外から講師を招いて健康問題に関する教育や研修を実施し、従業員の健康リテラシーを向上することも重要です。これにより、従業員に対する適切なサポートを職場全体で実施したり、従業員が自分の健康状態を自己管理(セルフケア)したりといったことがしやすくなるでしょう。月経不順など、女性特有の健康問題への理解を深めることも重要です。
若年層も含めた特定保健指導を実施する
特定保健指導は、主にメタボリックシンドロームの予防・改善を目的として、40歳以上の従業員に実施される保健指導です。健康増進のためには、問題が発生する前に予防することが理想ですが、そのために有効なのが特定保健指導です。
義務化されているのは基本的に40歳以上ですが、40歳未満の若年層にも実施することで問題の早期発見やヘルスリテラシーの向上が可能になり、より効果的な予防が実現できるでしょう。
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セルフケアを強化する
従業員の健康管理・健康増進を考える中で重要なのがセルフケアです。「セルフケア」は、従業員が自分自身で行う健康管理や健康増進を指します。そして、メンタルヘルス対策の1つでもあります。
セルフケアは従業員一人ひとりが自らの健康状態を把握しストレスを予防し、気付いた時に適切に対処することです。簡単そうですが実は正しい知識がないと適切に対処できません。
例えば、体や気持ちに異変が生じていても「今の自分は、健康状態が悪化しているかもしれない」と、自発的に気付いて対応できる従業員ばかりではありません。また異変の度合いや、生じる症状や頻度は、人によってそれぞれであるため、判断が難しい場合があります。
このセルフケアが十分にできれば、不調を未然に防いだり、重度に至る前に対処でき、組織全体でストレスへの対応力が強化されることとなります。また不調を感じた場合も重症化することなく改善できれば、企業にとってのダメージも軽減できます。
ストレスの認知や、その反応に自ら気付くためには、従業員一人ひとりがストレス要因に対する反応や、心身の健康について理解するとともに、気付こうとする姿勢が必要です。自ら気付き、対応する「セルフケア」を適切にできるようになるには、教育研修の機会を設けて、意識を高めていくことが重要です。
関連記事:企業で実践するセルフケアとは?個人・職場での取り組み例
生活習慣改善をサポートする
従業員の健康を増進するには、職場で過ごす時間も含めて、普段の生活習慣から改善することが重要です。健康増進に役立つ生活習慣としては、主に以下のことが挙げられます。
【運動機械の増進】
適度度な運動は肥満や生活習慣病などの予防に役立つほか、精神的なリフレッシュにも役立ちます。例えばスポーツに関する同好会やイベントを社内に設けたり、スポーツクラブの利用料を会社で一部負担したりすることで、従業員の運動を促せるでしょう。
また、同じ姿勢を長時間にわたって続けることは健康に悪いため、昇降式のスタンディングデスクなどを導入し、姿勢を変えて働けるようにする方法も有効です。
【食生活の見直し】
食生活は健康と密接に関係しています。不規則な食事リズムや栄養バランスの悪い食生活は肥満やさまざまな生活習慣病の原因になります。
対策例としては、社員食堂のメニューや量を見直したり、栄養やカロリーなどの情報をメニューに載せたりすることで、従業員の食生活や食のリテラシーを改善できるでしょう。
【禁煙対策】
喫煙は各種のがんの罹患リスクをはじめ、さまざまな健康被害をもたらします。
企業の禁煙対策としては、受動喫煙を防ぐために屋内での喫煙を全面禁止し、屋外への喫煙所を設置することや、喫煙者の従業員に禁煙外来への受診を勧めることなどが挙げられます。同時に、たばこの健康リスクを周知するための教育・啓発活動なども大切です。
【睡眠の質向上】
健康を維持するには、十分な時間の質の良い睡眠も必要です。睡眠不足の状態では仕事に必要な集中力を保てません。
企業ができる睡眠対策としては、睡眠の重要性を全社的に教育したり、仮眠スペースを設けたりすることが挙げられます。また、十分な睡眠時間を確保するために、退勤時刻から翌日の出社時刻までの間に一定時間以上を空ける「勤務間インターバル制度」の導入も効果が得られるでしょう。
従業員の健康を促す職場環境
従業員が1日の多くの時間を過ごす職場環境が悪いと従業員に大きな負担がかかり、従業員の健康課題が多くなるだけでなく企業の生産性低下にもつながりかねません。このようなことから改善を図り、従業員が働きやすい快適な職場環境を形成する配慮義務が事業主にあると定められているのです。
職場環境とは、単に作業をする場所そのものに限られません。作業方法や疲労回復するための設備なども、職場環境に含まれています。
- 人間関係:コミュニケーションなど
- 業務環境:空調照明など~設備レイアウトなど
- 業務内容:裁量権、負荷の量、労働時間
従業員が健康的かつ安全に働き続けられるように、職場環境や働き方を見直すことも大切です。時間外労働時間を減らすためにノー残業デーを設定したり、終業時間にPCを強制シャットダウンしたりする施策はその一例です。また、産業医やカウンセラーを設置することで疾病の早期発見や健康問題への適切な対応につながります。
とてもシンプルなことですが、働く環境が整うことで、従業員の健康増進となるだけでなく一人ひとりがパフォーマンスを最大限発揮できるようになります。
健康経営オフィスを取り入れる
2015年(平成27)に経済産業省の健康寿命延伸産業創出推進事業から発表されている「健康経営オフィスレポート」という資料があります。
その中で、生産性を上げる取り組みとして「健康経営オフィス」という考えが紹介されています。
これは、従業員が快適で清潔でコミュニケーションが取れる環境が整えば、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムが解消し、生産性アップにつながるという考えです。
「健康経営オフィスレポート」によると、オフィス環境において従業員の健康を保持・増進する行動は、大きく分類すると7つあるとされています。
- 快適性を感じる
- コミュニケーションする
- 休憩・気分転換する
- 体を動かす
- 適切な食行動をとる
- 清潔にする
- 健康意識を高める
従業員の心身の調和と活力が向上を図るためには、これらの行動をオフィス内で日常的に誘発させることが重要と言われています。
そして、オフィス環境(空間・設備・情報・運用)を整備し、健康の保持・増進に繋がる7つの行動を誘発することで、最終的にはプレゼンティー ズムやアブセン ティーズムの解消に結び付くと言われています。
集団で取り組む環境を整える
健康増進を部署単位でまとまって取り組むような仕組みにしたり、家族を巻き込んだ施策を行うことで、健康に無関心だとしても「みんながやってるから自分もやらないと」と思い行動する人も増えてくると想定されます。
特に日本人には同調効果が強く働く傾向があるため、部署単位で参加し、競い合ったり協力して推進できる仕組みを用いて、優秀だった部署へインセンティブを与えるなどすることで効果がより見込めると考えられます。
社内に健康文化を醸成させることは非常に重要であり、いかに多くの人を巻き込めるかがひとつポイントとなります。
行動変容しやすい環境を整える
健康増進の行動変容を促すには個人や集団での主体的な取り組みを支援する方向性とともに、その行動変容が可能となる環境整備が重要です。
例えば社員食堂がなく昼食を購入する場所が遠い勤務先の場合、お弁当のない従業員はインスタントラーメンを常備しておいたり、出勤時に昼食を買っておくなどの選択肢しか昼食を食べる環境が整っていない場合があります。社員食堂を設置するのは大掛かりで難しい場合でも、コンビニエンスストアの自動販売機を事業所内に設置したり、健康的なメニューのお弁当を宅配してもらう状況を作るなど環境を整えることを検討してみましょう。
他にも、従業員の運動を促すためにジムでの法人会員を検討したり、勤務時間中に上限回数を設けてジムや運動の時間を可能にするなど、「環境」「制度」として従業員の運動を後押しする工夫も大切です。
関連記事:行動変容とは?変化を促すアプローチと無関心層対策のポイント
ラインケアを強化する
ラインケアは、職場のライン上にいる直属の上司が部下の異常に気付き対応することです。
部下からの相談に適切に対応したり体調不良等にはやめに気づくには、メンタル疾病に対する偏見を持っていては適切に対応できないことがあります。適切なラインケアの実施は、企業のメンタルヘルス状況を改善・強化させます。管理監督者は日常的に部下と接点があるため、早期発見や問題があった場合のケアにおいて非常に重要な役割を果たします。
働き方の多様化により、異変に気付ける頻度が下がるケースもあるようです。
そのため、積極的に1対1の面談機会を作ったり、なるべくコミュニケーション機会を多く設けるなど、工夫や試行錯誤することが必要です。対面でのコミュニケーション機会が減ってきている中で、いかに早期発見するか、また未然にプレゼンティーイズム・アブセンティーイズムを食い止めるかは組織の重要課題の一つとなります。
産業医面談に至る前に人事や課・部単位でキャッチアップできていれば、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムに陥る従業員を未然に食い止めることや、適切な人材配置等の措置が可能となります。
課や部の上長または他のメンバーが異変を早めにキャッチアップすることが、組織にとっても従業員にとっても、よりよい「働く環境」になります。
関連記事:ラインケアとは?管理職の具体策・企業のメンタルヘルス対策
職場の心理的安全性を高める
心理的安全性とは、職場などの組織やチームの中で、意見や質問、違和感の指摘が、いつでも誰でも気兼ねなく発言できる状態のことです。
自分の言動が上司の叱責を招いたり、同僚の不信を買ったりすることがないという「心理的安全性」がなければ、いくらコミュニケーションの機会を設けても従業員は本音で交流することはできません。そして、自身の健康管理を進める際にも、体調に応じた働き方や相談のしやすさなど心理的安全性は大きくかかわってきます。
職場内の「心理的安全性」が十分に確保できていないようであれば、個別のヒアリングや配置換えなどを検討する必要があるかもしれません。
心理的安全性を高めるには、以下のような取り組みがよいでしょう。
- 発言する機会を均等に作る
- ポジティブな思考と言動を意識する
- 1on1ミーティングの価値を高める
- 一人一人をチームでサポートする
関連記事:心理的安全性とは?高めるための有効な取り組み
相談窓口を設置する
従業員がメンタルヘルス不調について気軽に相談できる窓口を設置することは重要なメンタルヘルス対策です。
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法によって設置が義務化されています。中小企業については2022年3月31日までは努力義務となっていますが、2022年4月1日には、大企業と同様に義務化が適用されるため、全ての企業において体制整備が必要となってきます。こうした観点からも、相談窓口を設置し、社内に周知して従業員の利用を促すことはリスクヘッジにもつながります。
社内に設置する方法と、社外に設置する方法の2つがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
社内の場合は体制を作り、メールや電話、面談等の相談方法を決めることで設置できるという手軽さがあります。
しかし社内に不信感や疑念を抱いている従業員は相談しづらい側面もあるため、社外に相談窓口を設置することも有効です。必要に応じて検討すると良いでしょう。
社内に好影響もたらす人物を作る
情報インフラが整った現代の日本では、さまざまなところに健康情報があり、触れる機会は豊富にあります。しかし身近な人から、実体験と共に聞くことで、共感が生まれ、より「自分事」として捉えやすくなります。
社内であれば、同僚や上司など、普段から接している人が病気になって回復したり、太っていた人が痩せるなどした際に、「どうしたら治ったか?」「何をやったから痩せたのか?」などの話は興味深く、実体験と共に聞くと、「私もやってみよう」「私も気を付けよう」となるのです。
聞く側としても、実体験に勝るものはありません。
例え今が健康であっても、また太っていなくとも、身近な人に関する話になるだけで自分事化されます。これは親近感がわくためです。
このように、「健康アンバサダー」のような好影響をもたらす人が存在すると、じわじわと社内で健康リテラシーが高まっていきます。
例えばRIZAPウェルネスプログラムには、「結果にコミット®コース」というサービスがあります。3ヶ月間、RIZAPによる食事管理と運動サポートで生活習慣を変えていくもので、3ヶ月で平均6.1kg減※の実績があります。
じわじわと体が変わっていくことで周りから「どうやって痩せたの?」などの秘訣や生活習慣で変えたことなどが口コミで広がり、「私もやってみよう」という方が表れてくるケースがあります。そういったきっかけを社内に作ることも得策です。
※結果にコミットコース受講者集計 2020年9月~2021年5月 N=278
健康増進を促す福利厚生
企業が従業員の健康のために行っているさまざまな取り組みの中には福利厚生を用意したり、施策に取組んでいたりすることがわかります。
ここでは、代表的な取り組みについて5つ紹介します。これから従業員の健康増進に取り組んでいこうと検討されていれば、ぜひ参考にしてみてください。
運動促進を促す仕組みを整える
昨今はテレワーク推進の影響もあり、通勤が減ったことにより、運動不足になりがちといった人も多く見られます。運動不足になると、腰痛や肩こりなどが慢性化し、業務効率が下がってしまいます。
生活習慣病などのさまざまな病気にかかりやすくなり、欠勤や休職する人も増えると業務をスムーズに遂行できなくなります。そのため、運動を促進させる施策も健康経営の取り組みとして必要です。
たとえば、社内の組織対抗スポーツイベントや禁煙などの健康セミナーを開催したり、従業員がスポーツジムに通う費用を一部補助したりするのもよいでしょう。
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“福利厚生”にオススメ
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健康状態を見える化する仕組みを導入する
企業が、従業員の健康状態をすべて把握するのは不可能です。しかし、どのような現状なのかを把握するため、できる限り見える化することは非常に重要と考えられます。現状を知らずに、対策は打てないからです。
まず、定期的な健康診断は、労働安全衛生法第66条で明確に定められているため、企業の義務としてすべての従業員に受けさせる必要があります。そのほか、心の不調を感じていないかどうかストレスチェックを行ったり、より詳細な健康診断として人間ドック受診に対する費用補助をしたりしている企業もよく見られます。
こうした従業員の健康状態を把握するための検査を福利厚生のメニューとして用意しやすいでしょう。
食事改善を促す仕組みを整える
健康経営の評価項目として、「食生活の改善に向けた取り組み」も存在します。「社員食堂」は、食事改善で健康を維持する取り組みの代表的な方法です。従業員の食事環境を整えることで、健康面での支援を行えます。
オフィス内に食堂を設けることが物理的に難しい場合は、社員食堂の代わりとして、定期的に食事補助を行うことも効果的です。
メンタルヘルス不調を防ぐ仕組みを整える
「メンタルヘルス」とは、精神的な健康を指します。健康かどうかは、身体のみならず心の状態も大きく影響するものです。しかし、ただ外から見ていても普段通りで、不調に気付けないことも多々あります。
情緒的な問題などメンタルヘルスで不調をきたした際に気軽に相談できるように、カウンセリング体制を整えておくことが大切です。
健康習慣を後押しする仕組みを整える
これまで紹介したさまざまな取組みについて、より効果を上げるための仕組みも人気です。たとえばスマートフォンにインストールするだけで、自身の健康を管理できるツールなどが挙げられます。目標を立て、達成できれば健康ポイントがもらえるなどのごほうびがあれば、従業員の目標達成へ向かうモチベーションもアップできます。
また、昨今は働き方改革として、特別休暇制度を設置し、好きなタイミングで取得させるのもおすすめです。休暇を取得すれば、心身ともにリフレッシュできます。一見遅れたように思えても、疲労を感じ不調気味のときには、しっかり休ませることが大切でしょう。
従業員向け健康増進の取り組み事例
健康への取り組みが定着|株式会社ベネッセホールディングスの事例
株式会社ベネッセホールディングスは、比較的若い従業員が多く、病気の人が多いわけではありませんが、生活習慣病予備軍については気を付ける必要があり、生活習慣病の予防としてポピュレーションアプローチをいろいろ実施してきた過去がありました。
しかし、健康無関心層が集まらず毎回関心のあるメンバーしか集まらないなど健康施策に関して苦戦を強いられている現状を変えるため、RIZAPの健康セミナーの導入を実施しました。
参加申し込み人数は翌年に4倍、翌々年には9倍もの推移を遂げる結果となりました。
2年間で9倍の参加申込数の増加を達成し、健康風土醸成につながっていると考えられます。また、健康や運動への取り組みが定着し自発的な動きがでてきました。
2021年、ベネッセグループでは健康施策の取組みの多くをオンラインで行い、様々な施策を通して従業員の健康増進を図りました。
その取り組みが評価され『健康経営優良法人2021』の「大規模法人部門」1,801法人のうち、さらに上位500法人である「ホワイト500」企業としての認定となりました。
ホワイト500への認定に対してRIZAPが少しでも携わることができたのはもちろんですが、ベネッセグループの従業員さまの健康増進にお役立てできたことは、とても嬉しく思っております。
ベネッセグループの詳しい事例はこちら
健康増進月間でテレワーク中の運動不足解消 │ NTTテクノクロス株式会社様
運動不足の解消と同時に、テレワークにより従業員同士もなかなか会えない時期だからこそコミュニケーションの促進を目的に「健康増進月間」を企画しました。
LIVE形式のRIZAP健康セミナーを含め、延べ200名以上が参加し、想定以上の盛り上がりとなりました。
『健康増進月間』ではオフィスに出社している従業員は会議室から参加し、テレワークのためオンラインで参加している従業員とともにセミナーを視聴したり、5minトレーニング動画をみるなどしてイベント形式でトレーニングを行う企画を複数回立てて実施しています。
健康セミナーや5minトレーニングに参加した人も、参加できなかった人もRIZAPの共通話題で盛り上がり、運動不足の解消だけでなく社内コミュニケーションの活性化にも繋がりました。
健康リテラシーが向上│地方職員共済組合和歌山県支部様の事例
2020年度、地方職員共済組合和歌山県支部様でRIZAPのセミナーを実施いただきました。
「若年層の肥満率増加」「集客力を強めたい」「40歳以上の生活習慣病の増加」「対面開催が難しい状況」「家族の健康意識も向上させたい」という課題をお持ちの中、3回に分けてRIZAPのセミナーを開催したところ、延べ535名にご参加いただきました。
オンラインセミナーにすることで参加ハードルを下げるだけでなく家族参加も可能となり、知名度のあるRIZAPがコラボレーションすることで集客力アップをサポートしました。
また、個人個人が好きなテーマを選んで参加できるよう、導入編、運動編、食事編の3回で知識の習得が幅広く行える構成にしたり、単発参加も可能とし、各回でより深い知識が得られることで継続参加を促進することができました。
各回で参加者アンケートを実施し、「参加前、健康に対する意識はどの程度ありましたか?参加後、健康に対する意識はどの程度ありましたか?」という質問を設けたところ、下記のような回答を頂くことができました。
1回目の開催前に実施したアンケートでは、健康に対して、「必要性は理解しているが行動に移せていない」という回答者が17名がいました。
ですが、開催後には17名全員の意識変容が見られました。「近いうちに行動する」あるいは「明日から実践する」「既に行動しているものにプラスする」にシフトしていました。
そして、最も特筆すべき点は、1回目は健康行動を既に実施している割合が20.7%だったのに対し、その2ヶ月後、2回目セミナーの開催前は「すでに健康行動をしている」人の割合が53.1%にまで増えています。
更にもう2ヶ月後の3回目の開催時にも、48.6%が「すでに健康行動をしている」と回答されています。
このことから
・短期的ではなく長期的に捉えてセミナー機会を設ける
・様々なテーマでアプローチする
などの要素がうまく奏功し、参加者の意識変容から行動変容にシフトさせ、更に習慣化にも繋がったということが数値で表れています。
運動習慣者率20%UP│株式会社シマキュウの事例
株式会社シマキュウでは、すでに実践している健康経営の取り組みにプラスして、RIZAPウェルネスプログラムを導入しました。
社長が率先して健康経営を推進し、RIZAPウェルネスプログラムを3ヶ月間実施した結果、1年後の健康診断の結果では運動習慣者比率が2倍以上に向上しました。
【RIZAPウェルネスプログラム導入結果】
約8割の従業員が健康数値に何らかの問題がある有所見者であり、メタボ、高血圧症、糖尿病などの生活習慣病を抱える従業員が多い状況でした。
そこで、社長が従業員一人ひとりと面談し、「健康を気遣った生活に変えて欲しい。大病せずいきいきと働いて欲しい」と想いを伝え、最終的には健康施策への参加率は100%になりました。
導入したRIZAPウェルネスプログラム「結果にコミット®コース」では、3ヶ月間RIZAPトレーナーが一人ひとりに合った生活習慣の定着をサポートしています。
業務時間内に実施し、健康意識の向上だけでなく、体重が平均6.2kg減、体脂肪率平均4.3%減と従業員全員が健康を手に入れる結果となりました。
実施後も、健康をテーマにする日常会話がうまれたり、運動習慣が定着し、富山マラソンに参加する従業員が初めて出てくるなど、健康文化が醸成されていることが分かります。
シマキュウの導入事例のダウンロードはこちら
健康管理・増進の取り組みを成功に導くポイント
様々な健康増進の取り組みを漫然と実施しても、一時的な効果になってしまう可能性があります。中・長期的な施策として効果のある内容を実行していくためには下記のようなポイントを意識することが大切です。
従業員の健康課題の把握
従業員の健康を増進するためにまず必要なのは、従業員の健康課題を把握することです。健康課題に応じて、取り組む内容の優先度が決まってきます。
健康課題を抽出するための根拠あるデータソースとして、「定期健康診断」「ストレスチェック」の結果が活用できます。定量的に現状を把握することができ、経年変化や他社と比べた際の自社の立ち位置が確認できるので非常に有効なデータとなります。
関連記事:ストレスチェックとは?対象者、目的、メリット、実施方法
健康課題抽出に活用できるデータの例として以下が参考になるのでぜひご確認ください。
※参考:経済産業省 令和2年度 健康経営度調査
その他、自社で取得している従業員サーベイ(パルスサーベイ)や健康施策実施の参加者アンケートも活用できます。
近年ではコラボヘルスやデータヘルスといった保険者や産業医・保健師など産業スタッフと協力して行う健康増進も注目されており、企業だけで行う場合よりもより深く・的確に健康課題を抽出できるでしょう。
定期健康診断やストレスチェックはすでに顕在化したものですが、なぜその結果(=健康課題)が抽出されているのか原因を突き止めることも同時に重要となります。
例えば、従業員アンケートや勤怠データが挙げられます。健康状態と職場要因と関連性がどの程度あるのか、実際のアンケート結果や勤退状況を照らし合わせて考えることで、より具体的な課題把握が可能となります。
全社共通の健康課題かどうか見極める必要はありますが、より因果関係や改善のヒントが得られる産業医や保健師との面談結果も重要な定性情報になります。
■定期健診や特定健診等からわかること
定期健診の受診率が低い、生活習慣病の治療中・未治療者が多い、再検査・精密検査の受診率が低い、肥満者率が高い、高血圧率が高い、糖尿病率が高い、やせ・肥満(BMI18~25以外)率が高い、脂質異常症率が高い など
■問診や面談からわかること
運動習慣化比率が低い、喫煙率が高い、飲酒習慣比率が高い、不規則な生活、食生活の乱れ、腰痛、肩こり、睡眠不足どうして食事の乱れや運動不足、体の痛み等に至ってしまうのかの理由 など
■就業状況やストレスチェック、従業員調査からわかること
ストレスレベル(ストレスの内容や心身のストレス反応など)、活気がない、従業員エンゲージメントが低い、心の病が多い、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム など
■職場環境データや労働時間データ等からわかること
従業員の高齢化、長時間労働、休日労働 など
健康経営の推進
健康経営は、『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法』です。健康施策にかかる支出をコストと考えるのではなく、『投資』としてとらえることが重要になります。
従業員の健康を増進し、健康課題の改善を行うことで生産性の向上・組織の活性化を図り、最終的には業績の向上・企業価値の向上を目指す取り組みになります。
健康増進を行うことは、リスクマネジメントや労働災害の予防だけでなく、従業員が長く健康で働くことが可能になるため、アブセンティーイズム(欠勤や休業)の予防にもつながります。
関連記事:【徹底解説】健康経営の取り組み方│企業にもたらす効果や事例
まとめ
企業が従業員の健康を守ることは、法的に定められた義務であると同時に、さまざまな経営上のメリットをもたらします。健康経営は、そのメリットを最大化し、企業戦略として従業員の健康管理を行う取り組みです。少子高齢化がさらに深刻化することが確実視されている現在、健康経営の重要性は今後ますます高まっていくことでしょう。
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